これからの時代99%のクリエイターは稼げなくなる。そして批評家が求められる時代に

これからの時代では99%のクリエイターは稼げなくなります。そしてこれからはクリエイターよりも批評家が求められ、クリエイターよりも批評家の地位が高まる時代となります。

ネットの発達で誰でも簡単にクリエイターになれる時代に

かつては自らの作品を創作してそれを世間の不特定多数に向けて公開することの出来るクリエイターというのは、一部の限られた人間にのみ許された特権的なポジションでした。

しかし、現在はインターネットの発達によって、誰でも簡単に自らの作品や創作物を世間に向けて公開することが可能になりました。

現在では自作の音楽や動画であればニコニコ動画(ニコ動)に、写真であればInstagram(インスタグラム)に、自作の小説やイラスト、漫画であればpixiv(ピクシブ)にと、誰でも簡単に自分の作品をアップして不特定多数に向けて公開することが可能です。

随筆やエッセイ、評論などであれば、現在ではブログなどがまさにその公開の場にあたるでしょう。はてなブログなどの無料のブログメディアも普及し、誰でも簡単に自分の考えや意見などをインターネット上で公開することが可能になりました。

かつてであればイラストを世間に公開するにはプロのイラストレーターに、小説を世間に公開するには文学賞を受賞してプロの小説家に、そして漫画を世間に発表するには出版社に認められてプロの漫画家に、そして自分の音楽を発信するのであれば音楽事務所のオーディションを突破してプロのミュージシャンになる以外に方法はありませんでした。

自作の漫画やイラストなどであればヲタクの祭典であるコミックマーケット(コミケ)に出展する、小説などの書籍であれば自費出版などの方法もありましたが、その為の印刷代などの費用を自ら負担する必要がありました。

音楽を発信するのであればストリートミュージシャンという方法もありましたが、その道を通る本当にごくわずかな人間にしか聴かれる可能性がありませんし、動画サイトにアップされた人気の自作曲の様に、何万人、何10万人という多くの視聴者に音楽を発信するというのは不可能なわけです。

しかし、現在ではインターネットによって誰でも簡単に、そして無料で、自分の作品を不特定多数に向けて公開することが可能となっているのです。

この様に誰でも簡単に作品や創作物を世間に公開することが可能となった現在の日本の状況は、「1億総クリエイター」とも言える状況です。

供給過剰によって暴落するクリエイターの存在価値

この様に誰でも簡単にクリエイターとなれる現在では、供給過剰によってクリエイターの価値、そしてその作品の価値が著しく暴落しています。

芥川賞作家と言えばまさに小説家として文学界の頂点ですが、その頂点である芥川賞作家ですらかつてと比較すると収入が激減し、貧困生活に陥る危機を負っているのです。

年収1億円から困窮生活へ――芥川賞作家・柳美里が告白「なぜ、私はここまで貧乏なのか」- ビジネスジャーナル
http://biz-journal.jp/2015/05/post_10102.html

芥川賞作家の柳美里氏が、3月に上梓した『貧乏の神様 芥川賞作家困窮生活記』(双葉社)が話題になっている。昨年10月に柳氏が公表して話題となった雑誌「創」(創出版)の連載エッセイの原稿料未納問題や、困窮のためネット回線が止められ、公共料金や仕事の電車賃、あげく食費にも困るという作家の実情がつぶさに書き綴られているのだ。柳氏ほどの著名な作家がなぜここまで生活に苦しむことになったのか……その理由を自らが語った。

–いつから、なぜ、困窮するようになったのでしょうか。

柳美里(以下、柳) 困窮の理由はふたつあります。ひとつは、2004年ごろから断続的にひどい鬱状態に陥ることがあり、その間はトイレに行くにも起き上がれず、幻覚・幻聴も強く、「書かなければ」と思ってもまったく書けない状態になってしまいました。

もうひとつの理由は、携帯電話の普及に伴い本が読まれなくなり、だんだんと収入が減っていったことです。20代で出版した『ゴールドラッシュ』(新潮社)は、初版5万部だったと記憶していますが、最近出版するものは初版1万部前後。これは私だけの問題ではなく、一握りの超ベストセラー作家以外の作家は総じて初版部数を絞られています。電車に乗るたびに、絶望的な気分になりますね。昔はたくさんの人が文庫や週刊誌を読んでいたのに、今はスマホ。それも電子書籍が読まれているわけではありませんからね。

–多くの作家が経済的に困っている状態ということですか。

柳 「書くことだけで食べている作家は30人ぐらいではないか」という話を聞いたのですが、かなりリアルな数字だと思います。ただ「貧乏は恥ずかしい」と考えている方が多く、公にしないだけだと思います。

友人の作家は、1作当たりの販売部数が減ったことの対処として、出版点数を増やすことにしたそうです。私はそんなに量産できません。今回の『貧乏の神様』の前に出版したのは、1年前の『JR上野駅公園口』(河出書房新社)です。ある程度知名度のある作家の中には、大学や専門学校やカルチャースクールで教えたり、講演会やトークショーを頻繁に開いたりして、原稿料や印税以外の副収入に頼っている人もいます。私は講演会はほとんどしません。聞くところによると、講演会のギャランティもバブル期に比べて半分以下に減っているそうです。講演会収入で生計を立てていた作家も苦しくなっているようですね。

芥川賞作家である柳美里氏が小説家の現状や「困窮のためネット回線が止められ、公共料金や仕事の電車賃、あげく食費にも困る」という生活の厳しさを生々しく告白したインタビュー記事ですが、以下は特に衝撃的な事実です。

「書くことだけで食べている作家は30人ぐらいではないか」という話を聞いたのですが、かなりリアルな数字だと思います。

文学界や小説界の頂点である芥川賞、そして直木賞ですが、年度毎に上期と下期の2回の選考が行われ、それぞれ毎年2人程度のペースで選出されています。

直木賞・芥川賞受賞作一覧
http://prizesworld.com/naoki/wins/

平成元年である1989年以降では、2017年現在で芥川賞は60人以上、直木賞は70人以上が選出されています。合わせて延べ130人以上の作家が直木賞・芥川賞に選出られたということが言えます。彼らはまさに狭き門を突破した近年の文学界の頂点と言える存在です。

しかし、「書くことだけで食べている作家は30人くらい」です。つまり文学界の頂点である芥川賞作家も直木賞作家も、その大半は作家としてだけではまともに収入を得て生計を立てていくことが出来ていないということです。

この様に作家や小説家にとってはまさに受難の時代ですが、これもまさしくインターネットと「1億総クリエイター」化の産物と言えるでしょう。

電車に乗るたびに、絶望的な気分になりますね。昔はたくさんの人が文庫や週刊誌を読んでいたのに、今はスマホ。それも電子書籍が読まれているわけではありませんからね。

スマホをいじるばかりで全く本を読まない「若者の活字離れ」「読書離れ」などが言われていますが、しかし実際は、紙に印刷された活字や、または有料で出版された電子書籍などばかりが、この世界に存在する文字情報ではないわけです。

スマホから閲覧しているTwitter(ツイッター)の文章であったり、投稿サイトで公開されている小説であったり、またブログやニュースサイトであったり、または匿名の掲示板サイトであったり。

インターネットの発達によって、現在ではこれらの膨大な文字情報を無料で得ることが可能となりました。「活字離れ」「読書離れ」と言われていますが、私達が日常から接する文字情報量は、むしろかつてに比べて遥かに増大しているのです。

かつては書籍や雑誌を通して、プロのライターや小説家という特権的なクリエイターの発信する文字情報しか得ることが出来なかったのが、現在ではパソコンやスマホによって、一般の素人や匿名の人間が投稿した膨大な文字情報を無料で自由に閲覧することが出来る。

これが現在の文学界や出版業界でまさに起こっていることです。

ですので、「読書離れ」「活字離れ」と言われていますが、問題の本質は逆に「インターネットによる文字情報の過剰供給」であり、それによって引き起こされる既存の書籍・雑誌・新聞などの出版メディアの文字情報の価値の暴落なのです。

この様なコンテンツ飽和とクリエイターの価値の暴落が最も顕著なのは文学ですが、音楽やゲームや漫画など他の分野のコンテンツも、じきに文学と同様に無料のコンテンツによって飽和状態となり、大多数のクリエイターが食べて行けなくなることは確実です。

他の分野のクリエイターの方も、文学界の現状は決して対岸の火事として無視出来るものではありません。

コンテンツにお金を払う時代が終焉を迎えようとしている

この様に創作物が過剰に社会に供給され、クリエイターの価値や地位が暴落し続けている現在では、インターネット上に溢れる大量の無料の情報や創作物だけでもその全てを消費し切ることが、事実上不可能となりました。その結果起ころうとしているのが、クリエイターの創作したコンテンツにお金を払う時代の終焉です。

お笑い芸人であるキングコングの西野亮廣が絵本を無料公開したことで一部で賛否を呼び話題となっていましたが、おそらくこの様な形態はこれからの時代はむしろ主流になっていくのではないかと思います。

大ヒット中の絵本『えんとつ町のプペル』を全ページ無料公開します(キンコン西野)
http://spotlight-media.jp/article/370505056378315909

ご覧頂いているこの弱小ブログ「ホワイト零細企業への転職」ですら、文字量としては全ての記事を合わせると50万字以上、一般的な文庫本小説の文字数の目安である300ページ・10万字の5倍以上の文字情報量となっていますが、当然の様に全ての情報を無料で閲覧可能です。

この様なコンテンツが溢れかえっている時代で、情報の消費者にわざわざお金を払って小説などのコンテンツを読ませることは非常に難しくなって来ているのです。

溢れかえったコンテンツを評価する批評家の役割が重要に

この様に大量のコンテンツが溢れかえった今の時代では、溢れかえったコンテンツを選別して評価する批評家やレビュアー、キュレーターの役割が非常に重要なものとなりつつあります。

個人でアフィリエイトサイトなどを運営して年収数1,000万などの高収入を上げているアフィリエイターは一種の商品レビュアーですし、キュレーションサイトは組織的にインターネット上の情報を取りまとめて紹介し数億・数10億という規模の莫大な収益を挙げています。

コンテンツが溢れかえりその価値が暴落している現在では、同じ文筆家になるのであれば、小説家や作家などのクリエイターになるよりも、批評家であるレビュアーや、様々なコンテンツをとりまとめて紹介するキュレーターになった方が遥かにお金も稼げるのです。

そしてこのクリエイター没落の流れは今後さらに加速しようとしています。本当に数人のごく一握りの人気クリエイターしか、クリエイターとして収入を得て生活が出来ない社会となっていくことは、時代の潮流からして間違いありません。

人工知能という名のクリエイターにとっての新たな脅威

そしてこの様な多くのクリエイターにとって非常に厳しい冬の時代を迎えようとしている日本ですが、さらに息絶え絶えのクリエイターに追い打ちをかける様に出現したのがAI(人工知能)という新たな脅威です。

これからの時代は人工知能がアニメや映画や小説の様なコンテンツを生成し、多くの人間のクリエイターの作品は商業分野から駆逐されます。

そんな恐ろしい創作家にとってはディストピアの様な時代を迎えようとしているのです。

人工知能とクリエイターの今後について詳しくは以下の記事で書いていますので、興味があれば是非お読み下さい。

以上、「これからの時代99%のクリエイターは稼げなくなる。そして批評家が求められる時代に」の記事でした。

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